又吉直樹がデビュー作よりも先に構想していた恋愛小説『劇場』とは?

小説作品
出典元:楽天ブックス

今回は、2020年4月17日に映画版が公開予定(新型コロナウイルスの影響により現在、公開日未定)だった又吉直樹原作の長編小説『劇場』についての紹介記事になります!(^^)!

「一番会いたい人に会いに行く。 こんな当たり前のことが、なんでできへんかったんやろな」

売れない劇作家と女優を志し上京してきた学生が出会い、恋人になり、やがて二人は暮らし始めます。

そんな、二人の夢を追う苦悩と恋を描いた青春小説です。

映画『劇場』予告

『劇場』作品情報

  • 作品名:劇場
  • 著者名:又吉直樹
  • 出版社:新潮社
  • ページ数:207ページ
  • 初版:2017年5月11日

著者紹介

又吉直樹(またよしなおき)

2015年、中編小説『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞

『火花』は現在300万部を超える大ベストセラーになり、芥川賞受賞作で第1位の売上を記録。

今作は作者にとって2作目の作品であるが、執筆開始時期は1作目『火花』の執筆開始時期より前である。

あらすじ

ここからはあらすじを振り返ってみます。

未読の方は読み飛ばしていただけますと幸いです(>_<)

二人の出会い

出典元:ぱくたそ

売れない劇団『おろか』を友人・野原と旗揚げした劇作家の永田は、数少ない劇団員の青山たちにも見放されていました。

そんな時、永田は女優を志し上京してきた沙希と出会います。

「靴、同じやな」

いつのまにか僕は小さな声で変なことを言っていた。僕は知らない人に話しかけたことなどなかった。

「えっ」

その人は僕の汚れたコンバースのオールスターを見た。

そして、「違いますよ」と言った。

「同じやで」

同じであって欲しかった。

『劇場』12ページ(新潮社)

最終的に沙希は一見怪しく思える永田を拒絶せず、やがて永田と沙希は恋人同士になります。

二人の暮らし

出典元:ぱくたそ

永田は服飾の学校に通う沙希の家に転がり込むと、夕方に起きては脚本を書き、それ以外は家事や一切の生活費を払わずにだらだらと過ごす生活を送り始めます。

永田の気難しい性格から発せられる沙希に対する言動も沙希は笑い飛ばしていて、そんな沙希の笑顔は永田にとっても支えになっていたようです。

「あとな、ディズニーランドって、ウォルト・ディズニーって人を祀ってる神社やろ?」

沙希は笑いながら、「神社じゃないよ」と言った。

沙希はなんでもすぐに笑うから、自分に才能があるのではないかと勘違いしたくなる。

「くらべたら笑われるんやろうけど、おれは自分で創作する人間やから、ディズニーランドで好きな人が楽しんでるのを見るのは耐えられへんねん」

本当に自分がそんなことを思っているのかはわからなかった。

『劇場』77ページ(新潮社)

沙希が学校を卒業しても、永田をとりまく環境は変わらず、公演を重ねても、劇団の評価は上がりませんでした。

最近巷で話題を呼んでいた同年代が中心の劇団「まだ死んでないよ」に対する嫉妬や焦燥感、周囲への劣等感や現実逃避、そうした感情が、永田という人間を形作っていました。

永田は以前自分の劇団から抜けた青山からライターの仕事を請け負うようになりますが、稼いだ金は沙希ではなく自分のために使っていました。

二人の変化

永田は演劇に打ち込むため、沙希の家を出ます。

沙希からのメールには目も通さず、演劇のことだけを考えるようにしますが、酔って気が大きくなると沙希の部屋に行き、ベッドに入り込むこともありました。

その頃から、沙希にも変化が現れます。思いつめた表情を浮かべることが多くなり、毎晩お酒を飲むようになります。永田は沙希の不安定さの原因が自分にあるということはわかっていました。

永田は沙希を励まそうとふざけたことを言って沙希を笑わしますが、出会った頃のような笑顔ではありませんでした。

二人の終わり

出典元:ぱくたそ

沙希が周囲の説得で別れる決意をしたと知ると、永田はわざとらしい優しさと明るさで、強引に関係を続けさせます。しかし、沙希は仕事をやめ、部屋でふさぎこむようになりました。

そして、二人の終わりがやってきます。

その終わりは二人らしい、演劇のセリフを自由に考えて言い合うというシチュエーションでした。

「今、セリフ考えてるの?」

「沙希ちゃんも一緒に考えて」

つかの間、沙希は考えているようだったが、意を決したように表情を変えた。

「あなたとなんか一緒にいられないよ」

沙希の声は相変わらず優しく弾むようだったが、思ったよりも強い言葉が返ってきた。

(中略)

「いられるわけないよ。昔は貧乏でも好きだったけど、いつまでたっても、なんにも変わらないじゃん。でもね、変わったらもっと嫌だよ。だから仕方ないよ。本当は永くんはなにも悪くないもん。なにも変わってないんだから。勝手に年とって焦って変わったのはわたしの方だからさ。だから、どんどん自分が嫌いになっていく。ダメだよね」

『劇場』203ページ(新潮社)

そんな沙希の想いを聞いても、永田は小道具のお面を顔に被せ、以前沙希を笑わせた時のように身体を変な風に動かしながら「ばああああ」と何度も繰り返し言うと、沙希は観念したようにようやく泣きながら笑うのでした。

最後に

演劇に身を投じる永田が初めて自分を認めてくれたように思えた沙希との出会いは、甘えられる対象であり、何でも受け入れてくれる存在のようでもありました。

しかし、沙希を取り巻く周囲の声が徐々に大きくなり、永田との仲を裂いたのかもしれません。沙希は演劇しかできない不器用な永田に惹かれつつも、永田と別れる道を選択するのでした。

前作『火花』に続き、売れないが必死に表現の道を信じている人間像を描いた今作。

周囲に迷惑をかけたり周りに煙たがられる「人間のダメな部分」を思い切り露呈してしまう登場人物が、読者に向けて「あなたにもこういうところが少なからずあるでしょ?」と問いかけてくるようにも思えました。

こうした人間像を描くのは作者自身が太宰治の『人間失格』を何度も読み返したエピソードからも意識して書いているのではないかと考えることもできます。

人間の醜い部分を抱えながら日常を生き、成功を目指すも手に届かない二人の生活。

人間が寄り添って生きる難しさ、そしてその関係が終わる切なさが詰まった青春小説『劇場』。

又吉作品ならではの不器用な若者の群像劇をぜひお楽しみください!

コメント

タイトルとURLをコピーしました