17回目を数えることになった2020年本屋大賞。今回は、その本屋大賞受賞作品となった凪良ゆう著『流浪の月』をレビューしていこうと思います!(^^)!
9歳の女の子と19歳の青年が過ごした2ヶ月は世間では誘拐事件として扱われ、二人のその後を変えていきます。それから15年が過ぎ、予期せぬ再会をした二人の物語です。
せっかくの善意を、わたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。
『流浪の月』作品情報
- 作品名:流浪の月
- 著者名:凪良ゆう
- 出版社:東京創元社
- ページ数:313ページ
- 初版:2019年8月
著者紹介
元々は漫画家志望であり、ボーイズラブ作品を10年以上書いてきた作家さんです。
「恋するエゴイスト」でデビューし、2007年刊行の『花嫁はマリッジブルー』が初の著書作品となります。
あらすじ
ここからは簡単にあらすじを見ていきます。
今回から未読の方にも安心して読める範囲であらすじを紹介させていただきます( ^^) /
幸せな家庭のはずが

気の強い母親と物静かな父親のもと、幸せな家庭で育った女の子・更紗(さらさ)。
しかし更紗が9歳の時に両親は姿を消し、親戚の家に預けられることに。
そこに住んでいた従兄・孝弘の行為が原因で更紗は辛い日々を送ることになります。
わたしの我慢も空しく、毎日、少しずつ状況は悪くなっていった。
安心できない日々は人を用心深くする。わたしはお風呂場の鍵を閉めることを覚えたし、蒸し暑い梅雨の夜、お風呂上がりでもしっかりとパジャマを着込むようになった。
(中略)
夜も安息の時間ではない。わたしに割り当てられたのは、窓の小さな二階の部屋だった。物置として使っていた部屋を伯母さんが片づけてくれたのだ。小公女みたいで素敵だけれど、ぐっすり眠ることはできない。真夜中特有の不穏な物音に神経がささくれ立つ。
『流浪の月』28ページ(東京創元社)
文との出会い

家に帰りたくない更紗は、ある日公園で大学生の文(ふみ)と出会います。
更紗は文をかつての父の姿と重ね合わせ、心を許す存在として受け止めます。
「帰りたくないの」
わたしは慌てて言った。お父さんに似た人に馬鹿と思われたくない。
男の人はビニール傘をわたしの頭の上に移動させた。
「うちにくる?」
その問いは、恵みの雨のようにわたしの上に降ってきた。頭のてっぺんから爪先まで、甘くて冷たいものに侵されていく。全身を覆っていた不快さが洗い流されていく。
「いく」
わたしは立ち上がり、自らの意志を示した。
『流浪の月』30ページ(東京創元社)
そうして二人は、一人暮らしの文の家へ。
更紗にとってそこはとても安らげる場所だったため、更紗は自らの意志で文の家に住むことを選びます。
更紗は再び幸せな生活を手に入れますが、伯母が警察に届けていた更紗の捜索願により、誘拐事件として警察が捜査を始めます。
そしてある日、更紗の希望により二人で動物園に出かけた時、文は警察に見つかり、二人は離ればなれに。やがて、その様子はニュースやインターネットで話題になってしまうのです。
15年の時を経て

時は流れて15年後、二人は再び出会います。
ここからが今作の本当の始まりとなります。
「かつて誘拐した犯人と、誘拐された少女」はその後、どのような関係を築くのでしょうか。
所感
更紗は大人になっても「誘拐事件」の被害者として世間の目に晒されており、更紗自身は文に傷つけられていなくても、世間が不用意に更紗を傷つけてしまっているのが印象的でした。
更紗は文を恋愛対象でなく、あくまでも「居心地のいい相手であり、ずっと一緒にいたい相手」として見ています。
そんな、いわば性別すら超越した、互いが互いを必要とする想いが物語の終盤に加速していく展開の早さはグイグイ惹きつけられてしまいました。
第三者から見える事実と当事者間にある真実では見え方が大きく異なることを、皆さんもぜひ二人の物語から紐解いてみてください!
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